ボイスフィッシング被害救済、IBK企業銀行と韓国ディープラーニングはなぜ「書類」から変えたのか?
IBK企業銀行 金融消費者支援部と韓国ディープラーニングは、2026年4月から8月にかけて、金融業界初となる視覚言語モデル(VLM)ベースのAIエージェントを、ボイスフィッシング(電話金融詐欺)の被害救済業務に導入して実証を行いました。AIエージェントは手書きの申請書や低画質の身分証明書を分類し、必要な情報を抽出して犯罪類型まで推定。実証評価では書類の処理時間が88%短縮されました。この技術は来年上半期に実際の業務へ導入される予定です。
01. ボイスフィッシングの被害申告が届いた。
では、ここから書類を読まなければならないとしたら?
1枚のFAXが届きます。ボイスフィッシングの被害救済申請書です。
欄のあちこちに手書きの文字があります。
一緒に届いた身分証明書の写しは、文字が読み取りにくいほどぼやけています。
担当者はまず、これがどの書類なのかを確認します。
必要な情報を一つずつシステムに入力し、申請者が自ら書いた被害の経緯を最初から最後まで読みます。
被害への対応は早いほど良いものです。
ところがその出発点には、人が一枚ずつ読まなければならない書類が置かれています。
AIが代わりに文字を読めば解決するのでしょうか?
答えは半分だけ正解です。文字を正確に読めても、どの文書かを見分け、
被害の内容を理解し、次の工程に渡す情報を整理する作業はそのまま残ります。
AIが読むだけで終わらず、その次の作業まで担うとしたら、
担当者の業務はどう変わるでしょうか。
IBK企業銀行 金融消費者支援部と
韓国ディープラーニングが今回の実証で確かめようとしたのは、まさにこの問いでした。
02. なぜ「書類」から変えたのか?
今回の実証で扱った書類は、手書きを含む被害救済申請書と低画質の身分証明書でした。FAXで受け付ける書類のため、画質もまちまちです。
金融特化型のAIエージェントDEEP Agent for Financeは、まず書類の種類を分け、必要な情報を抽出します。手書きの文字と文書のレイアウトをあわせて読み取る必要があったため、視覚言語モデル(VLM)を使いました。
DEEP Agent for Financeは、韓国ディープラーニングのAIエージェントプラットフォーム「DEEP Agent OS」上で、金融業務に合わせて動作するエージェントです。
Q. 被害救済はスピーディーな判断が求められる業務ですよね。
それなのに、判断ではなく書類処理から自動化したのはなぜですか?
キム・ジヒョン代表
「判断を速くするには、判断に必要な材料が先に揃っていなければならないからです。
被害救済業務では、その材料が手書きの申請書やぼやけた身分証明書の中にあります。すると担当者は、判断する前に読んで、書き写して、もう一度確認することに時間を取られてしまうんです。
AIを導入するときは、どんな技術を使えるかよりも、仕事が実際にどこで詰まっているのかを先に見るべきだと考えています。今回はそれが書類だったということです。」
03. 書類を読んだだけでは、仕事は終わらない
今回の実証で注目したい機能は、犯罪類型の推定です。
申請者が書いた被害の経緯を読み、その事件がどのタイプのボイスフィッシングに近いかを、AIがまず見極めます。
決められた欄の文字を書き写す作業とは性質が違います。文章の内容を理解して初めて、次の業務に使える情報が生まれます。
Q. 韓国ディープラーニングは文書認識技術で知られる会社ですが、最近はAIエージェントプラットフォームを前面に出していますね。この2つは何が違うのですか?
キム・ジヒョン代表
「文書認識は今でも私たちの仕事の土台です。文字を正確に読めなければ、その後に続くどんな作業も信頼できませんから。
ただ、企業が求めているのは認識結果そのものではなく、仕事が終わっている状態なんです。申請書を正確に読めたとしても、人がもう一度確認し、別のシステムに入力し、次の担当者のために整理しなければならないなら、仕事はまだ残っているということです。
エージェントは、その残った工程をつなぐ役割を担います。読み取った内容を分類し、基準に合っているかを確認し、次の業務へ渡すところまでを一つの流れにまとめるんです。」
DEEP Agentが書類を読んだ後に検証し、次の業務へ渡す仕組みは、以下で詳しくご覧いただけます。
04. 書類処理時間88%短縮、数字よりも大切な変化
両機関は文書分類、情報抽出、犯罪類型の推定を一つの流れでつなぎ、
その結果、実証評価で書類の処理時間が88%短縮されました。
被害救済全体にかかる時間ではなく、書類を処理する段階で確認された数値です。
Q. 88%という数字を、現場ではどう受け止めればよいでしょうか?
キム・ジヒョン代表
「数字そのものより、その数字がどこから出てきたのかを一緒に見ていただきたいです。今回の結果は、書類を処理する段階で確認したものです。被害救済全体がそれだけ速くなったと言うと、かえって正確ではありません。
私が意味があると考えているのは、担当者が繰り返していた『読む・書き写す・もう一度確認する』作業が実際に減ることを、実証の中で確かめられた点です。その時間が減ってこそ、担当者は金融消費者保護という本来の仕事にもっと集中できますから。」
実証の進め方や今後の実業務への適用計画は、韓国メディア イーデイリー(Edaily)の報道でも紹介されています。
05. 金融機関がAIに仕事を任せるには、何が必要か?
今回の実証には、AIの結果をそのまま信じない仕組みが組み込まれました。文字認識エンジン(AI-OCR)と視覚言語モデルがそれぞれ読み取った結果を照合し、信頼度の高い項目は自動で処理。信頼度の低い項目は担当者に回し、目視で確認する流れにしました。
システムは、銀行の内部ネットワーク(閉域網)で運用するオンプレミス方式で構築しました。
個人情報を含む書類を外部サーバーに送らず、銀行内で処理する構成です。
Q. 金融機関がAIソリューションを選ぶとき、モデルの性能以外に何を先に見るべきでしょうか?
キム・ジヒョン代表
「AIがどこまで処理し、どこから人に引き継ぐのかを、まず決めておく必要があります。金融業務には、最終的に人が責任を負うべき判断が確かにありますから。
今回の実証で信頼度を基準に自動処理と目視確認を分けたのも、その境界を業務フローの中にあらかじめ描いておいたということです。結果をクロスチェックするのも同じ理由です。
さらに、データが機関の外に出ない運用環境まで整ってはじめて、金融機関は実際に仕事を任せられると考えています。私たちがモデルだけでなくプラットフォームの話をするのは、そのためです。」
金融業界の閉域網環境で文書AIを運用する際に何を確認すべきかは、以下の記事にまとめています。
06. 公共機関AIイノベーションチャレンジ優秀賞、実証のその先は?
今回の実証は、IBK企業銀行 金融消費者支援部と韓国ディープラーニングが共同で進めました。IBK企業銀行はこの実証課題により、韓国の科学技術情報通信部と財政経済部が共催した「2026 公共機関AIイノベーション成果大会」で、「2026 公共機関AIイノベーションチャレンジ」AIサービス実証部門の優秀賞を受賞しました。全国105機関が提出した316件のうち、優秀課題30件に選ばれた結果です。
Q. 今回の実証がIBK企業銀行の受賞につながった今、韓国ディープラーニングはどのような方向を目指しますか?
キム・ジヒョン代表
「今回の実証で確認できたのは、金融機関が実際に任せられる範囲の中で、AIエージェントが仕事を処理できるということです。次の課題は、この流れを実際の運用環境で安定して回すことです。
被害救済の書類のように、人が繰り返し読んで書き写す仕事は、ほかの金融機関や公共分野にもたくさんあります。今回検証した方法をそうした書類業務へ広げていくことが、私たちが次に取り組むべきことだと考えています。
良い評価をいただいたからといって、技術を大きく語りたいわけではありません。現場の担当者の繰り返し作業が本当に減ったのかを確かめ続けること。それが私たちの仕事だと思っています。」
07. 文書を理解するAIから、仕事をこなすAIエージェントへ
今回の実証は、金融業界のAIエージェント活用事例の中でも範囲がはっきりしたケースです。ボイスフィッシングの被害救済書類から始まり、確認したのも書類処理の段階です。
それでも、この実証が投げかけた問いは広いものです。金融機関には、書類を読んだ後に始まる仕事が数多くあります。情報を確認し、基準に合っているかを検証し、例外があれば人が判断する。被害救済の書類で見えた流れは、こうした業務のあちこちに似た形で存在しています。
もちろん、今回の結果がそのまますべての金融業務の自動化を意味するわけではありません。この実証技術は来年上半期に実際の業務へ導入される予定で、実運用環境での検証はそこから本格的に始まります。
韓国ディープラーニングが今回の実証で示そうとしたのは、文字をうまく読む技術ひとつではありません。文書を理解し、判断に必要な情報を準備し、人が決めるべきポイントまで仕事をつないでいく企業向けAIエージェントプラットフォームです。
一枚の書類から始まった問いは今、「その次の仕事は誰がするのか」へと移りつつあります。
韓国ディープラーニングのAIエージェントプラットフォーム「DEEP Agent OS」
▶️ 金融機関へのAIエージェント導入を相談する
書類を読む段階から、検証、業務処理、運用管理までを一つにつなぎます。
金融機関の内部ネットワーク環境でどのように運用されるのか、ぜひご確認ください。
よくある質問
IBK企業銀行はAIエージェントでどの業務を自動化しましたか?
ボイスフィッシングの被害救済業務のうち、手書きの申請書や低画質の身分証明書を分類し、必要な情報を抽出し、犯罪類型を推定する書類処理の段階です。2026年4月から8月まで、韓国ディープラーニングと共同で実証しました。
書類処理時間88%短縮は、何を基準にした数値ですか?
実証評価において、書類を処理する段階にかかった時間を基準にした数値です。被害救済全体の所要時間や、被害金の回収にかかる時間を指すものではありません。
実際の業務にはいつ導入されますか?
来年上半期に実際の業務へ導入される予定です。銀行の内部ネットワークで運用するオンプレミス方式のため、個人情報を含む書類を外部に送らずに処理します。
💡 参考資料
イーデイリー(Edaily)、「ボイスフィッシング被害救済にAI…韓国ディープラーニング・IBK企業銀行が協力」(韓国語)、2026-10-30
科学技術情報通信部・財政経済部(韓国)、「2026 公共機関AIイノベーション成果大会」開催(韓国語)、2026-10-28
